2021年度日本近代文学会関西支部秋季大会 自由発表 発表要旨

三好達治の四行詩―同時代俳論の影響に注目して―

武久 真士

 三好達治の詩集『南窗集』(椎の木社、一九三二)などに収録されている四行詩については、従来俳壇の写生論やフランスの詩人ジュール・ルナールの影響が注目されてきた。特に俳論の影響に関しては詳しく論じられており、『ホトトギス』派の花鳥諷詠論を三好が取り入れていたとの指摘がなされている。しかし、同時代の俳論を詳しく調査すると、そこで述べられているのが単なる花鳥諷詠の写生ではなく、詠者の主観と対象が密接に結びついた主客合一の境地を目指したものであることが見えてくる。本発表ではそれを踏まえ、三好が四行詩においてそうした俳論をどのように活用しているのかを分析する。三好は主客合一的〈写生〉を語り手〈私〉と風物の重ね合わせという表現の面に生かしており、そうした詩法は彼の詩論を実現することにもつながっているのである。三好は「詩歌と科学」(『科学ペン』一九三七・一)などの詩論において、読者が詩を読むことを通して詩人の「調和感覚を喚起し再現する」こと、つまり詩人の感覚と読者の感覚が重なることの必要性を主張している。主客合一的〈写生〉が応用されることにより詩で読まれた対象と詩そのものが重ねられ、その結果表現という面において風物を詠む詩人と詩を読む読者までをも重ねることが可能となったのである。三好は西欧流の四行詩(カトラン)に俳句の〈写生〉を組み合わせることで、独自の定型詩を作り上げたのだと言える。