会報 第11号

日本近代文学会関西支部の会報第11号が発行されました。
内容は以下のとおりです。
★支部大会研究発表題目(2006年秋季大会、2007年春季大会)
★支部大会印象記(2006年秋季大会、2007年春季大会)
★研究会紹介
★会員の業績(2006年度)
★事務局からのお知らせ等
こちらからご覧いただけます→会報第11号

2007年度秋季大会 研究発表要旨

2007年度日本近代文学会関西支部秋季大会の研究発表要旨は以下の通りです。
■ 『虞美人草』における視線―〈勧善懲悪〉の裂け目―
                  坂井二三絵(大阪大学大学院)

  夏目漱石の『虞美人草』で、甲野はその日記に「色を見る物は形を見ず、形を見るものは質を見ず」と書き、物事の表層だけを見て本質を捉えないことを批判する。語り手も甲野と同じ視線であるかのように、浮ついた文明の民の代表として美貌を誇る藤尾を描き、終盤には裁断を下す。
 このような『虞美人草』の展開は前近代的な〈勧善懲悪〉として批判されてきたが、藤尾の死が罰でなく自己表現と読め、〈勧善懲悪〉を破綻させている点を逆に評価する論考も増えている(注1)。だが、近年『虞美人草』の構造や意味内容の堅固さが問い直されている(注2)ことからも、作品の展開や結末の意味だけでなく、テキストに表れた記述の細部を再検討する必要があろう。
 見ることへの問題意識は、比叡の景色や博覧会への視線の描写やそこで交わされる会話に、より具体的に表れている。その記述は、登場人物の個々の性格や価値観を示唆し、それ以上に〈勧善懲悪〉の基盤となる批評を行う甲野の超越的立場の危うさをも浮き彫りにする。さらに、登場人物たちが交わす視線は、それぞれの微妙なあり様や関係も露呈してくる。『虞美人草』に頻出する、見ることへの言及や視線の描写は何を表しているのか。この作品の新たな読みをそこに探ってみたい。
(注1)水村美苗「「男と男」と「男と女」―藤尾の死」『批評空間』(1992.7)など。
(注2)金子明雄「小説に似る小説:『虞美人草』」『漱石研究』(2003.10)。
 
■木下杢太郎『唐草表紙』における個人主義と民族回帰
                  権藤愛順(甲南大学大学院)

 本発表では、これまで正当な評価がなされていない木下杢太郎の処女小説集『唐草表紙』(大正四・二 正確堂)を評価することを目標としている。先行研究においてはこの作品集の情緒の豊かさや、作品を彩る特徴的な描写法にのみ言及されることが多かった。しかしそういった特徴をもつ作品は、『唐草表紙』の、主に前半部に収録された作品に限られる。ここでは、幼少年期の追憶といった共通モティーフが認められ、幼少年期の感覚を再現する際に微細な感覚表現が多用されている。
 人間の官能表現の密度の高さは、確かにこの作品集の特質の一つではあるが、そこに対照的に配置されている近代の青年の精神的苦悩の内実を描く作品群と合わせて読まなければ、いかにしてそれらの濃やかな官能表現が手段として選ばれたかは理解されない。
 この作品集における近代の青年の苦悩は、西洋から移入された個人主義思想に端を発する。本発表では、苦悩として感じられるに至る個人主義思想が、『唐草表紙』においては、「遺伝」という概念を梃子として民族の精神に立ち返ることで解消されていくさまを論じたい。その際収録作品の中でも主に「六月の夜」(明治四二・一一「スバル」)「新布橋」(明治四二・一「スバル」)といった作品を中心に考察したいと考えている。ここには、心理学の分野で「民族意識」という理論をうちたて、杢太郎本人にも多大な影響を与えた心理学者ウィヘルム・ヴントからの影響がみられるということも指摘したい。
■三島由紀夫 短編小説研究―「大臣」「訃音」からの一考察―
                井迫洋一郎(大阪府立河南高等学校)

 三島由紀夫は少年時代、詩と短編小説の中に自らの〈哀歌〉を籠めてきたと自選短編集の解説で述べている。その強い思いは多くの短編小説の執筆として表わされている。一方で、三島の強い思いとは裏腹に一部の短編小説のみ研究され、未だ多くの作品において検討されていない。
 以前「百萬円煎餅」という作品について考察を進めた際、三島の短編小説における技法のひとつとして主題らしい主題を持たず、読者の思考によって変化する意外性を意識させることで現代社会をシニカルに表現しているのではないかと論じた。同時に、ある社会をパロディ化することを中心におく三島の短編小説の技法はどこから始まったのだろうか、という点が現れた。
 本発表において、三島が短編小説を多く執筆していた昭和二〇年代に焦点をおいてみたい。終戦から大きく社会が変わっている頃、その変わりゆく社会の中心であ中央省庁、大蔵省の事務官として勤務していた頃の三島の様子と、その大蔵省時代の経験から創作された「大臣」「訃音」について考察していく。官吏《平岡公威》としての視点から見た官僚の世界を作家《三島由紀夫》の立場でどのように変化させ、作品を作り上げたのか。世間一般の社会とかけ離れた官僚という〈特殊な〉社会を描き出し、その社会に住み着く役人の常識を越えた価値観をどのように描いているか。〈短編小説の模範的な形は、古風なコント〉と考えている三島の短編小説の初期作品から技法や構成作りなどの点について考察を進めていきたい。
                                   
■川端康成『父母への手紙』の構造
                  渡邊ルリ(東大阪大学)

 『父母への手紙』(昭和七年一月『若草』、四月『文學時代』、八年九月『若草』、十月『文學界』、九年一月『文藝』)は、「小説家」の「私」が雑誌の小説として書いた、亡き父母に宛てた五通の手紙によって構成される。「私」の記憶にない〈あるかなきかの父母〉宛の手紙をもって小説としたのは、何を描くためであったのだろうか。
 書き手である「私」は、第一信で掲載雑誌の読者である「若い娘さん達」を想定すると共に、第二信では過去に出逢った少女達に小説が読まれることを意識しており、その上で亡き父母に宛てて「嘘だらけの手紙」を書くが、第五信では「嘘」を「越えてしまひさうに」なるという。この作品構造を捉えることによって、「私」と読者の前に明らかにされていく「私」の意識を読み解きたい。
 本作は、連載中の出来事を含む川端自身の体験を多く素材とするため、従来自伝的要素が重視される傾向にあるが、それにとどまらず、昭和初期、小説の可能性を探る川端の一側面をあらわす斬新な書簡体小説だったのではないだろうか。

2007年度秋季大会のお知らせ

2007年度 日本近代文学会関西支部秋季大会のご案内
《日時》2007年11月10日(土)       13時30分~17時30分
《会場》天理大学 9号棟(ふるさと会館)
     〒632-8510 天理大学杣之内町1050
      電話 0743-63-9037(国文学国語学科共同研究室直通)

      天理大学へのアクセスは→こちら
        〃  のマップは   →こちら  
《内容》
 挨拶                川島二郎(天理大学学科主任)
 
 研究発表(発表要旨は→こちら
 
   『虞美人草』における視線―〈勧善懲悪〉の裂け目―
                    坂井二三絵(大阪大学大学院)
   木下杢太郎『唐草表紙』における個人主義と民族回帰
                    権藤愛順(甲南大学大学院)
   三島由紀夫 短編小説研究―「大臣」「訃音」からの一考察―
                    井迫洋一郎(大阪府立河南高等学校)
 
   川端康成『父母への手紙』の構造
                    渡邊ルリ (東大阪大学)
                         
 
 閉会の辞              支部長 太田登(天理大学)
 臨時総会
※総会終了後、18時より天理駅前ウエルカム・ハウス・コトブキにて懇親会を開催します。会 費は5000円(学生・院生4000円)の予定です。
※同封の葉書で、大会・懇親会のご出欠を11月1日(木)必着 で(ご欠席の場合も)事務局まで必ずご回答下さい。
※役員の方は11時までに天理大学9号棟(ふるさと会館)会議室にご参集ください。

公式ブログの仮開設について

日本近代文学会関西支部の公式ブログを仮開設し、試行的にオープンしています。メンテナンスや担当者の引き継ぎの容易さなどを考え、今後ブログ形式に移行したいと考えておりますが、本格移行する前に会員の皆様よりご意見を募りたいと思います。ごらんいただいた感想などを、ご遠慮なくお寄せ下さい。
関西支部公式blogは現在ご覧のURLに引っ越しました。
本blogに関するご意見・ご感想は下記のアドレスまで。

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維持費について

維持費へのご協力のお願い
 日本近代文学会関西支部の運営費は、会員各位のご協力による維持費(任意納入、一口2千円、何口でも可)と、日本近代文学会からの補助費によってまかなわれております。
 支部では、より学会活動を活発化するために、企画特集に取り組むなど、新たな支部活動を進めています。昨今の国立大学の独立行政法人化や私立大学等の財政状況の厳しさに伴い、大会会場費が増大するなど、年間の支出は益々増加しております。
 以上の事情を御理解のうえ、何卒維持費へのご協力をお願い申し上げます。


維持費(任意納入、一口2千円、何口でも可)の納入方法は下記のいずれかの方法でお願い致します。

  1. 会員へ送付される振り込み用紙での納入
  2. 関西支部春季大会・秋季大会の会場にて現金納入
  3. 郵便局備え付けの振り込み用紙へ下記口座番号を記入の上納入
     口座記号番号 00930-4-313376 加入者名 日本近代文学会関西支部

ご協力をお願い申し上げます。
(2014/6 追記)

入会のご案内

入会案内
1,日本近代文学会関西支部へ入会希望される方は、事前に日本近代文学会へ入会して下さい。
2,日本近代文学会への入会につきましては、以下に掲げる日本近代文学会新業務委託先へお問い合わせください。
 入会を希望する由を伝えると、「入会申込書」が送られてきます。
 また、日本近代文学会HP入会案内ページからも「入会申込書」はダウンロードできます。
〈日本近代文学会新業務委託先〉
 〒112-8610
 東京都文京区大塚2-2-1 お茶の水女子大学 理学部3号館204
 特定非営利活動法人 お茶の水学術事業会 日本近代文学会 係
 電話&FAX 03-5976-1478
 メールアドレス amjls-info[a]npo-ochanomizu.org
※[a]を@に読みかえてください
   尚、「日本近代文学会会則」には、「原則として会員二名の推薦を受け、理事会の承認を得なければならない」とありますのでご注意ください。
3,関西支部への入会は、日本近代文学会への入会手続き終了後、関西支部事務局にあててご連絡ください。
 別途「入会申込書」をお送り致します。また、関西支部春季・秋季大会の会場受付でも「入会申込書」を配布しております。
〈関西支部事務局連絡先〉
〒630-8506
奈良市北魚屋西町 奈良女子大学文学部 磯部敦研究室内
日本近代文学会関西支部事務局
 ここからも「入会申込書」(関西支部入会用)をダウンロードできます。
4,入会の承認につきましては、少々お時間を頂くこともございます。予めご了承ください。
(2019/5 文面修正)